とっとこ

 きっかけは姉から母への1通のメール


 「ハムスター買ってきて」


 1年位前に飼ってたハムが死んで、そろそろあの可愛らしいやつが恋しかった

 そのメールを見てすぐ、母親と近くのペットショップへ色んな種類のハムスターを見に行った

 
 今まで飼ってたジャンガリアンのゲージの前では、周りのチビッコお構いなしで見入った

 




 やりづらそうに2匹で車輪をまわして

 その車輪の下ではおが屑に埋もれて寝て

 餌箱に全身突っ込んでヒマワリの種食べて

 餌で膨れた顔して

 壁に手ついて立って鼻ヒクヒクさせて

 急に動きが止まったと思えば辺りを見渡して





 
 あの独特な姿が全部そこにあって

 懐かしくなって

 また家であの姿を見たいと思った

 


 見に来ただけのはずがいつの間にか母と2人 「どの子にするか」 真剣に選んでた




 ネーミングに惹かれて覗いた「イエロープディング」のゲージ

 名前のまんまプリン色してるやつ

 そのゲージにも色んな姿があった

 
 その中でひたすらにゲージ内を駆け回る元気なやつがいた

 なんとなくそいつを目で追ってた

 
 きっとにやけてたんだと思う笑

 母さんが「この種類にする?」って言って、僕は目を離さないまま頷いた


 普段は親と外に2人で出掛けるのが嫌で恥ずかしかったはずなのに、その時は素直に楽しかった
 
 嬉しかった

 
 よく笑った


 
 
 そのうち元気なやつが、顔を見せないで丸まって寝てるやつを踏んずけた

 不意に起こされたそいつは蛍光灯の灯りが眩しそうに目を細めながら、鼻をヒクヒクさせながら顔を見せた



 

 これが初顔合わせ




 税込み1980円でありながら他のハムスター達とは一線を画すベッピン

 せっかく買った車輪もせいぜい1日2〜3周するくらい 
 
 それもすっごい遅いの  

 車輪がキコキコ寂しそうな音出して笑



 今まで飼ってきたハム達とは違う

 落ち着いてて臆病

 
 ハムを手の上で遊ばしてる時に手を縦に動かして高さつくるんだ

 右手と左手の高低差に怖がって最初はなかなか下りようとしないんだけど
 
 ある時意を決して全身力みながらジリジリ下りてくんのね

 もう後には戻れないだろって所で意地悪して更に高くすると

 後ろ足を思いっきり横に広げて、落ちまいと必死にもがくあの姿(笑)

 
 最高に好きだった








 いつからだろう

 高3になって大して勉強しないのに受験だって言って

 なかなか触らなくなって世話も全部親に任せて

 気の向いた時だけ起こして遊んで


 大学に入ってからは家にいる時間が少なくなって

 家に帰れば疲れてすぐ寝て

 見ることも稀もなった








 今日の夕方家に帰ってきたらゲージが片付いてた 

 
 
 必要なはずのティッシュが詰まった小屋もない

 
 空になったゲージの上に木箱が1つ置かれてた

 
 母さんは何も言わない

 
 いま家に独り

 
 さっき

 
 開けた




 

 けど、そこにはいなかった

 


 

 何週間か前見たとき、毛並みが悪くなって、1回りか2回りも小さくなってる姿に驚いた

 口の辺りに何かできてた

 
 前飼ったハムスターも同じ様に腫瘍みたいなのが出来てそれが肥大して、

 反比例して体は細くなって、死んでいくのを僕は見ていた
 

 



 「もうそう遠くない」 と確信した



 
 
 弱っていく姿を見るのが怖くて見たくなくて、それ以来見なかった


 

 かわいいかわいいって世話も任せて遊んで

 痛々しい姿を見たくないからって遠ざけて見ないふりして

 
 

 そんな姿1番見たくなかったのは1番世話して可愛がってた母さんだろ?
 
 
 
 そんな事さえも知らないふりして

 好きな事して

 
 


 本当にごめん


 


 
 もう絶対にしない。誰に対しても。なんに対しても。

 
 


 
 


 せめて残していった事にはしっかりと向き合おうと思う







 
 


 本当にありがとう